
インプラントは、天然歯に近い噛み心地や見た目を再現できるメリットの多い治療法です。しかし治療が終わった後も、メンテナンスを怠らないことで、インプラントを長持ちさせることにつながります。
人工物であるインプラント自体はむし歯になりませんが、その周囲を支える歯ぐきや骨は生きており、炎症や感染の影響を強く受けます。
とくに「インプラント周囲炎」は進行が早く、放置すると脱落につながる重大なリスクです。本記事では、なぜメンテナンスが必須なのか、メンテナンスが不足した場合に起こりうるリスクを詳しく解説します。
目次
■インプラント治療後のメンテナンスは必要?
結論からいうと、インプラント治療後のメンテナンスは重要です。その理由は以下の通りです。
◎インプラントは天然歯と異なる構造のため
インプラントは人工の歯根を顎の骨に埋入し、その上に人工歯を装着する仕組みです。
天然歯には歯根膜(歯の根っこの周りにクッションのような膜)があり、細菌感染に対する防御や咬合圧(噛んだ時の圧力)の緩衝作用を担います。
しかし、インプラントにはそれが存在しないのです。そのため、炎症が起きた際に防御力が低く、進行が速いのが特徴です。これを補うために、日常の歯みがきに加え、歯科医院での定期的な検診とプロフェッショナルケアが必要になります。
◎インプラント周囲炎の早期発見と予防
インプラント周囲炎は歯周病に似ていますが、進行スピードが早く、数ヵ月単位で骨が大きく吸収されることもあります。
歯ぐきの腫れや出血といった初期症状は自覚しにくく、患者様ご自身では気づけないことも多いため、歯科医院での定期的な検診が大切です。早期に炎症を発見できれば、クリーニングや局所的な処置で進行を食い止められます。
◎プロによる専門的な清掃
日常の歯みがきでは落としきれない歯石やバイオフィルムは、インプラント周囲炎の原因になります。
専用器具を用いた歯科医院での清掃は、インプラントに適した器材を使用し、周囲組織を傷つけずに汚れを除去していきます。これにより、炎症のリスクを抑える効果が期待できます。
■インプラント治療後のメンテナンスを受けないとどうなる?
◎インプラント周囲炎の進行
メンテナンスが不足すると、歯ぐきに炎症が起こり、やがて細菌感染がインプラント周囲の骨に波及します。
上述したように、天然歯には歯根膜という防御組織がありますが、インプラントには存在しないため、炎症が骨に直接広がりやすい特徴があります。
その結果、インプラント周囲の骨はは天然歯の歯周病よりも早いペースで溶けてしまい、数ヵ月という短期間で大きなダメージを招くこともあります。こうした急速な骨吸収は、患者様が自覚症状に気づく前に進んでしまうため、とくに注意が必要です。
◎インプラントの脱落と再治療のリスク
骨が溶けて失われるとインプラントを支える力が弱まり、グラグラとした動揺や脱落につながります。
一度脱落した場合、再治療を希望しても骨量が不足しているために骨再生療法(GBRやサイナスリフトなど)の処置が必要となるケースが多く見られます。これらの処置は歯肉を切開したりするため、身体的な負担も大きく、治療期間や費用もかさんでしまいます。
◎周囲の歯への影響
インプラント周囲の炎症は、隣接する天然歯にも波及することがあります。炎症によって歯ぐきが下がり、隣の歯にプラークや歯石が付着しやすくなると、天然歯の歯周病を誘発する危険性が高まります。
最終的には歯列全体の噛み合わせのバランスが崩れ、複数の歯を失う連鎖的なトラブルに発展することもあります。
◎全身に悪影響が及ぶリスク
インプラント周囲炎はその部分だけの問題にとどまらず、全身の健康に影響することもあります。
炎症を引き起こす細菌や炎症性物質が血流を介して全身に広がると、糖尿病や心筋梗塞、動脈硬化などの全身疾患のリスクを高めることが報告されています。
とくに既往症をお持ちの患者様にとって、口腔内の感染をコントロールすることは全身の健康維持にも直結します。
◎インプラント保証が受けられなくなる
インプラントの保証の条件には「定期的な検診やメンテナンスを受けていること」が明記されている場合がほとんどです。メンテナンスでの通院をサボってしまうと、不具合が生じた際に「保証対象外」と判断される可能性が高まるのです。
定期的に検診を受けていれば、トラブルを未然に防げるだけでなく、万一の場合でも保証を活用しやすくなり、安心して長期的にインプラントを使用できます。
■まとめ
インプラント治療後は、定期的なメンテナンスが大切です。インプラント周囲炎は進行が早く、歯ぐきや骨に重大な影響を与え、最悪の場合インプラントの脱落につながります。
また、放置によって周囲の歯や全身にまで悪影響を及ぼす可能性もあります。さらに、定期的な通院をしなかったことで保証が受けられなくなる場合もあり、治療費の負担が増えるだけでなく、治療自体も複雑になってしまう可能性があります。
3〜6ヵ月ごとの検診とクリーニングで予防し、インプラントを長持ちさせることが大切です。インプラント長持ちさせる方法については、過去のコラム「インプラントを長持ちさせる・寿命を延ばすための方法」を参考にしてみてください。
