
レジでの会話や食事中に入れ歯が動くとき
「いらっしゃいませ」と声を出した瞬間、下の部分入れ歯がふわりと持ち上がる。食事では同じ場所の歯ぐきがしみるように痛む。こうした変化は、歯ぐきの形、入れ歯の留め具、噛み合わせなど、いくつかの原因から起こります。自分で削らずに症状を記録し、歯科医院へ相談することが早めの対処につながります。 この記事では、受診の目安と相談前の準備をまとめました。
この記事の要点まとめ
- 浮きや痛みには、歯ぐき・留め具・噛み合わせなど複数の要因が関係することがあります。
- 症状が続く、傷や腫れがある場合は歯科へ連絡し、自分で削ったり曲げたりせず相談します。
- 痛む場面や時期を記録し、使用中の入れ歯を持参すると診察で状態を伝えやすくなります。
下の部分入れ歯が浮く・落ちる・痛むのはなぜですか?

原因は歯ぐきや顎の変化だけではありません。入れ歯そのものの傷みや、噛み合わせのずれも関係します。症状だけで原因を一つに決めず、口の中と入れ歯の両方を確かめる必要があります。
口の状態に合わせて型採りの方法や材料を選ぶことは、入れ歯の質の向上につながり、生活の質も高める可能性があると報告されています1。作った時点の形と今の口の形がずれると、そのずれが動きや痛みとして表れます。
歯ぐきや顎の形が変わると、なぜ入れ歯が浮きますか?
歯を失った場所の歯ぐきや顎の骨の形が変わっているかは、診察で判断します。一方で、入れ歯の内側は以前の形のまま。そこにすき間ができ、浮きやすくなるのです。
「歯の骨がなくなる」「骨が溶ける」と心配される方もいます。ただ、抜歯後に起こる自然な形の変化と、歯周病による骨の減少は別のものです。痛みの強さだけで骨の状態は判断できません。
留め具のゆるみや入れ歯の傷みでも外れやすくなりますか?
はい、外れやすくなります。部分入れ歯を支える留め具(残っている歯にかける金属のバネ)が広がると、話すたびに浮きやすくなります。人工歯のすり減りや、床(歯ぐきに乗るピンク色の部分)の小さなひびも当たり方を変え、痛みのもとになります。
割れた部分を接着剤で貼ったり、留め具をペンチで曲げたりするのは控えてください。 あとで修理できる範囲が狭まることがあります。
噛む力が弱くなったのは、入れ歯のずれが原因ですか?
ずれが関係していることもありますが、それだけとは限りません。痛い場所を避けて片側ばかりで噛んでいると、噛みにくさを感じやすくなります。
歯が抜けたままの場所で、向かい合う歯(対合歯)が動いているかは、診察で判断します。動いていれば、入れ歯の当たり方が変わる場合も。どれが原因なのかは、診察で一つずつ確かめていきます。
入れ歯が痛いとき、いつ歯科へ連絡すべきですか?

浮く・外れる・食事で痛むといった状態が数日続くなら、我慢せずに歯科医院へ連絡してください。傷や腫れを伴う場合は、予約を早めに取りましょう。入れ歯の合い具合は一人ひとりの口の状態によって違うため、個別に確かめることが前提になります。
傷・出血・腫れがある場合、受診を急ぐ目安は何ですか?
次のような状態は、早めに連絡したいサインです。
- 痛くて食事がとれない
- 歯ぐきの傷や出血が続いている
- 入れ歯が急に外れる、または割れた
- 歯ぐきが腫れている、熱が出ている
息苦しさや飲み込みにくさがある場合は、歯科を待たずに救急を含む医療機関へ相談してください。
受診まで、痛む入れ歯を使い続けてもよいですか?
無理に着けて食べ続けるのは控えましょう。柔らかい食事を選び、入れ歯と口の中を清潔に保つことを優先してください。
外していないと過ごせないほど痛む場合は、その状態も含めて電話で相談を。受診の日は、今使っている入れ歯を忘れずに持参してください。
当たる部分を自分で削ると、なぜ困るのですか?
痛む場所と、実際に整える必要がある場所が一致しないことがあるからです。入れ歯全体がわずかにずれ、別の部分に力が集まっているケースもあります。
削りすぎると適合や強度が損なわれ、かえって通院や費用がかさむこともあります。出費を抑えたいお気持ちは、私もよく分かります。だからこそ、当たった跡が歯ぐきに残っているうちに歯科医院で診てもらうことが大切です。
ポイント
自分で削ったり曲げたりせず、症状をメモして入れ歯ごと歯科医院へ。そのほうが結果として負担を抑えやすくなります。
歯科では調整・修理・作り替えをどう決めますか?
作り替えがすぐに決まるわけではありません。傷の位置、入れ歯の状態、残っている歯や噛み合わせを診たうえで方針を考えます。
診察では入れ歯と口の中のどこを確認しますか?
歯ぐきの傷や赤み、入れ歯の内側の当たり、留め具のかかり具合を見ます。あわせて、留め具をかける歯の揺れやむし歯、上下の噛み合わせも確かめます。口腔内カメラで撮った画像を見ながら説明を受けると、どこが当たっているのかがつかみやすくなります。レントゲンなどの検査が必要かどうかは、口の状態を見て歯科医師が判断します。
どのようなときに調整や修理、作り替えになりますか?
| 入れ歯と口の状態 | 検討されることが多い対応 |
|---|---|
| 一部だけが当たって痛む | 当たる部分の調整 |
| 留め具の変形、人工歯の外れ、ひび | 状態に応じた修理 |
| 口の形とのずれが大きい、傷みが広範囲 | 内側の裏打ちや作り替え |
実際には、いくつかの対応を組み合わせることもあります。総入れ歯の作り方を比べた研究2もありますが、対象は総入れ歯です。下の部分入れ歯の作り替えの結果を示すものではありません。
何回通うかは、相談時に分かりますか?
おおよその見通しは、診察のあとに確認できます。調整なら少ない通院で済む場合もあります。一方、作り替えでは型採りや噛み合わせの確認などの工程が増えます。
入れ歯以外の方法について尋ねるのも一つの選択です。ただ、総入れ歯とインプラントで支える入れ歯を比べた報告3は、部分入れ歯の方にそのまま当てはまるものではありません。インプラントは自由診療(公的医療保険が適用されない)で、術後も定期的なメンテナンスを続けることが前提になります。
インプラントを検討する場合も、まずは入れ歯の調整・修理・作り替えで対応できるか確認します。治療期間・通院回数・費用は口の状態や治療内容によって異なるため、医師にご相談ください。当院での治療期間・通院回数・費用は、診察のうえでご案内します。
当院に限らず、まずは保険診療の範囲内でできる治療を確認することが大切です。別の治療法をその場で決める必要はありません。
入れ歯を相談する前に、何を準備すればよいですか?
使っている入れ歯を持参し、動く場面と痛む場所を伝えられれば、診察が進めやすくなります。症状は診察台の上では再現しにくいため、日常の様子を書き留めておくと役立ちます。
接客中の浮き方や食事中の痛みは、どう記録しますか?
- 浮く場面(話し始め、笑ったとき、噛んだときなど)
- 痛む位置と、食べにくかった食べ物
- 出血の有無、症状が始まった時期
- 一日に入れ歯を着けている時間
スマートフォンのメモに一行ずつ残すだけでも、診察で伝え漏れを減らす手がかりになります。
予約時には、入れ歯と通院予定について何を伝えますか?
痛みや傷があること、入れ歯が割れた場合はその旨を伝えてください。破片があれば捨てずに袋へ入れ、入れ歯と一緒にお持ちください。
お仕事の曜日、ご家族の通院の送迎、楽しみにしている外食の日取りも、遠慮なくお話しいただいて構いません。必要な通院回数とあわせて、無理のない日程を相談できます。
保険診療の範囲や費用は、いつ確認できますか?
診察で対応の内容が見えてから確認できます。調整・修理・作り替えのどれになるか、入れ歯の種類は何かによって扱いが変わります。
費用の目安を示す場合も、それは一般的な相場であり当院の費用ではありません。実際の費用は医療機関により異なるため、診察後にお尋ねください。
歯科医院への相談は、治療方法をその場で決めることとは別です。まずは症状のメモと入れ歯を手元にそろえ、外食の日程も伝えられるようにしましょう。説明を聞いてから、ゆっくりとご検討ください。
よくある質問
Q. 入れ歯安定剤を使えば、受診しなくても大丈夫ですか?
A. 一時的に使う方もいますが、合わなくなった原因を見えにくくしてしまうことがあります。使っている場合は、診察のときにその旨を教えてください。使い続けてよいかは、口の状態を見て歯科医師が判断します。
Q. 夜は入れ歯を外したほうがよいですか?
A. 外して歯ぐきを休ませるよう勧められることが多いのですが、残っている歯や噛み合わせによって考え方が変わるんです。ご自身の場合どうすればよいか、歯科医師に確認してください。
Q. 奥歯が抜けたままの場所があります。入れ歯の相談と一緒に診てもらえますか?
A. はい、まとめてお伝えください。歯が抜けたままの状態が続くと、向かい合う歯が伸びるように動く「挺出(ていしゅつ)」が起こることがあり、入れ歯の当たり方にも影響します。どの程度動いているかは、診察で確かめます。
Q. 外食の前日に急に痛くなったら、どう過ごせばよいですか?
A. 無理に着けて食べ続けず、柔らかいメニューを選んでください。傷や腫れがあれば、早めに歯科医院へ連絡を。当日の過ごし方も、電話で相談してから決めるとよいでしょう。
参考文献
1. Jayaraman S, Singh BP, Ramanathan B, et al. Final-impression techniques and materials for making complete and removable partial dentures. The Cochrane Database of Systematic Reviews. 2018. PMID: 29617037 / DOI: 10.1002/14651858.CD012256.pub2
2. Zandinejad A, Floriani F, Lin WS, et al. Clinical outcomes of milled, 3D-printed, and conventional complete dentures in edentulous patients: A systematic review and meta-analysis. Journal of Prosthodontics. 2024. PMID: 38666691 / DOI: 10.1111/jopr.13859
3. Kutkut A, Bertoli E, Frazer R, et al. A systematic review of studies comparing conventional complete denture and implant retained overdenture. Journal of Prosthodontic Research. 2018. PMID: 28666845 / DOI: 10.1016/j.jpor.2017.06.004
1997年~2000年 日本大学歯学部口腔外科 在籍
2000年~2002年 グリーン歯科 勤務
2002年~2007年 しらさぎ歯科医院 院長
2007年5月 ココ歯科クリニック 院長
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